気持ちよく汗をかくことのできる建築

Study For Physical Design

何万年も前から、ヒトは寒さや暑さと
なんとか折り合いをつけながら過ごしてきた。
ヒトの発汗能力の高さは抜群で、比肩しうるのはウマとロバくらい。
”暑かった〜”と言いながら味わう夕暮れの涼しさにも価値があるはず。
空調可能な現代において、暑さや寒さをどうデザインすべきだろうか。

気持ちよく汗をかくことのできる建築
Study For Physical Design

何万年も前から、ヒトは寒さや暑さと
なんとか折り合いをつけながら過ごしてきた。
ヒトの発汗能力の高さは抜群で、比肩しうるのはウマとロバくらい。
”暑かった〜”と言いながら味わう夕暮れの涼しさにも価値があるはず。
空調可能な現代において、暑さや寒さをどうデザインすべきだろうか。

消極的快適性と積極的快適性

建築環境工学の分野では、快適性には2種類あると言われています。それは、消極的快適性(カンファト)と、積極的快適性(プレザントネス)。暑い最中、一陣の風が吹くと、涼しくて気持ちいいと感じます。寒いところで、露天風呂に入ったり、薪ストーブにあたったりすると、あったかくて何ものにも代えがたい。そんな気持ちよさが「積極的快適性」。一方、快適だとか、不快だとか、特に意識はしないけれど、「暑さ寒さはどうですか?」と問われたときに、「快適ですよ」と答えるような、けして不快ではない、そんな快適感を「消極的快適性」といいます。
「快適」という言葉はよく用いられます。一般には、先述の「消極的快適性」を語る場合が多いと思われるが、あぁ気持ちいい、と感じるような、「積極的快適性」もデザインに取り込めるとユニークではないでしょうか。夏の夕涼みの心地よさは、昼間の暑さがあってこそでしょう。すだれ、風鈴、簾戸、藤の敷物、打水など、暑さをそれなりに楽しむのも、日本的な情緒であり、プレザントネスをちりばめたデザインかもしれません。秋が気持ちいいのも、春がうれしいのも、夏や冬があってこそのプレザントネス。冷暖房への依存度を減らし、暑さや寒さを気持ちよく許すことのできる住まいと暮らしの工夫について考えてみたいところです。

適応能

私達は季節の変化に身体が順応する「適応能」を、永い進化の過程で備えてきました。暑さの中では血管拡張と発汗で体温上昇を抑え、寒さの中では褐色脂肪組織の燃焼とふるえで体温を上昇さます。ヒトの発汗能力の高さは抜群で、比肩しうるのはウマとロバくらい。また、2歳以下で暑さに曝されないと能動汗腺を発達させるチャンスが少なくなるとも言われます。
そんな身体がもっている機能を気持ちよく発揮できる空間こそ、健康にも省エネにもよいように感じます。暑いなと感じながらもけしてイヤではない、気温は低めでも寒さを和らげてくれる、そんな住まいのつくりやライフスタイルがデザインできたとしたらどうでしょうか。

暖房環境の質感

私達は、テーブルの表面や建築の壁面の仕上がりなどの「質感」を、見て、そして触れて確認することができます。暖房や冷房についても「質感」はあるのでしょうか。
暖房について考えると、適切な断熱性とほどよい気密性、蓄熱性によって現れる感じのいい「温もり」のある状態を目指すべきだろうと考えます。部屋(房)全体を暖める「暖房」に対して、こたつやストーブによって局所的に暖かさを得る方法を「採暖」といいます。「採暖」は、こたつやストーブによって局所的な暖かさを得ることができます。採暖器具のそばでは快感をもたらしてくれる一方で、器具から離れた場所では断熱不足によって寒さが残るケースも多いと思われます。
日本では温暖地とはいえ、冬の外気はかなり低温となり、なんらかの暖房は必須です。その際、少ないエネルギーで空間全体を暖めるためには、断熱化も必要であり、建物の方位を考えて太陽熱を十分に取り込むことが大切です。さらにその際、断熱の内側に土壁やレンガなど熱容量の大きい蓄熱要素を持ち込むことで、より安定した温熱環境を実現することにつながります。

冷房環境の質感

冷房についても、不快な「冷暴」ではなく、すがすがしい質感を目指すべきでしょう。放射と対流によってもたらされる、おだやかな冷房の質感を考えたいところです。
日本の温暖地における旧来の住居は、夏は通風によって内外の気温差をなくすことによって過ごしやすさを得ようとしてきました。茅葺の屋根は超断熱であったわけです。天井面が熱くないことで、そよ風や土間の冷放射など、室内における微妙な涼感を得やすいものにしてくれていました。現代においても屋根や壁の断熱化をはかることで、焼けこみを防ぎ、室内の温熱環境をより穏やかなものにしてくれます。
現代では、屋外が高温に達した際にはエアコンによる冷房に移行するケースが多いことを考えると、少ないエネルギーで冷房を可能とするつくりとすることが望ましいといえます。その際、エアコンからの冷気が直接身体にあたって不快に感じさせたり、断熱が不十分な部位に暑さが残りこれを冷気で抑え込むような状態では「冷暴」になってしまいます。冷熱源の存在や足元の冷えを感じなせないような状態こそが、冷房の質感(クオリア)ということになるでしょう。
暑さに対処できるヒトの「適応能」を活かし、プレザントネスをちりばめながら、許容できる範囲は許容しつつ、冷房に移行した際には、冷暴にならないような、建築のつくりと機器を考える必要かもしれません。